
こんにちは。あいです。
この記事では小説「変身」(フランツ・カフカ作)を読んだ感想をまとめます。
※読了直後のネタバレなしの感想はブックメーターにまとめています。
尚、私が読んだのは新潮文庫出版、高橋 義孝氏の翻訳です。
登場人物について
【主役格の登場人物】
・グレーゴル・ザムザ
家族想いの青年。真面目なサラリーマン(外交販売)だったが、突如としてムカデのような虫の姿になる。
【その他の主な登場人物】
・グレーテ
グレーゴルの妹。
・父
グレーゴルの父親。
・母
グレーゴルの母親。
物語について
この章では、印象に残ったセリフをページ順に引用しながら、感想を交えて物語を振り返ります。
第一節
虫への変身
ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。
「変身」 (フランツ・カフカ/著 新潮文庫)p.5
冒頭の文章にて、主人公のグレーゴルが突然虫の姿になる。
因みに本作品を通しで読んでもグレーゴルが虫になった経緯や理由が語られることはない。
解説まで読むと何となくわかってくるが、そもそも「虫」であることに重要な意味はなく、一般社会から受け入れられ難い存在の象徴として使われたのがたまたま虫であったのだと思われる。
グレーゴルの仕事
「やれやれおれはなんという辛気くさい商売を選んでしまったんだろう。(以下略)」
「変身」 (フランツ・カフカ/著 新潮文庫)p.7
グレーゴルの己の仕事に対する独白。
私の建築の仕事も似たようなものであり、まさしく私が感じている不満そのものであったため、私はこの独白だけでグレーゴルにシンパシーを感じてしまった。
外交販売の仕事は出張が多いため不規則な生活になりやすく、一つの付き合いが長続きしないために本当に親しい間柄になることができないとの不満を述べている。
虫の身体
起きあがるには腕や手の助けを借りなければならないのに、その腕や手のかわりに現在あるのはたえずてんでんばらばらに動くたくさんの小さな足しかなく、またその足さえも彼の思いどおりにはならなかった。
「変身」 (フランツ・カフカ/著 新潮文庫)p.13
虫の身体が思うように動かせず困惑しているグレーゴルの様子。
虫の姿になって社会的なつながりだけでなく、身体の自由さえも終始奪われている。
何一つ思うようにならず、グレーゴルに降りかかる理不尽が強調されている。
第二節
家族からの扱い
第二接では、虫となってしまったグレーゴルに対する家族の対応が描かれている。
グレーゴルの家族に対する愛情に変わりはないが、いかんせんそれを伝えるすべを持たず、家族からは奇異な目で見られたまま遂には身体を傷つけられるに至る。
展開として楽しい話ではないが、文体のおかげか嫌な気分にはならない。
第三節
グレーゴルの死
感動と愛情をもって家の人たちのことを思いかえす。
「変身」 (フランツ・カフカ/著 新潮文庫)p.104
今にも力尽きようとしているグレーゴルが抱いた感情。
虫になってしまった自身に対する憤りでもぞんざいに扱った家族に対する恨みでもなく、ただ家族のことを想って死んでいくグレーゴル。
第一節の内容を鑑みるに、言葉でどう繕うとも、グレーゴルは実は自分の人生に対してすでに絶望(少々オーバーな表現だが)していたのではないかと考える。
根拠として、グレーゴルが家族の生活のことを心配する描写は幾度となく出てくるが、自分の人生に対する想いが見受けられない。
「虫」の目線で家族を見たとき、自分がいなくてもたくましく生活している家族の姿がそこにあった。
元々持っていた愛情に加えて、その姿に感動を覚えたグレーゴルは安らかに死の床についたと考えられる。
解説
有村隆広氏の解説について、本作を理解するのに有用なためいくつか引用。
カフカの母への想い
「母が僕に対して、とても優しかったのは事実です。しかし、僕にとってはそれもすべてあなたと関係していたため、結局はよい状態にあるとはいえませんでした。(以下略)」
「変身」 (バルザック/著 新潮文庫)p.118
幼年時代の母のしつけについて「父への手紙」のなかでカフカが残した言葉。
人は成長の過程にて、両親(それまで従順であるべきだった対象)に対する反抗というのは自我の形成という観点で非常に重要であると私は考えている。
この反抗する機会が奪われたことに対してカフカは恨み言を綴っているのだと感じる。
カフカの父への想い
「父上、あなたは肘掛いすに座ったまま世界を支配していらっしゃいました。あなたの意見が絶対正しくて、他の意見はすべて狂って変で、おかしな意見ということになってしまいました」
「変身」 (バルザック/著 新潮文庫)p.123
父親に絶えず支配されていたことを嘆き、「父への手紙」のなかでカフカが残した言葉。
どう足掻いても子は親の影響を受けずにはいられない。親が子に振りかざす正義はときに支配という名の暴力だ。
『変身』のテーマ
『火夫』、『変身』……そして『判決』は、外面的また内面的にも同じものです。三つの作人には、明白な、かつもっともらしい秘密の結びつきがあります。息子たちという表題でこれら作品がまとまることを、諦めたくはありません。
「変身」 (バルザック/著 新潮文庫)p.132
カフカが明言している『変身』のテーマ。
このテーマを知った上で本作品を振り返ると、内容理解が深まりやすい。
「息子」であるグレーゴルは父には敬意を払い、母には思いやりを持ち、兄妹には愛情を持って接する。理想の息子像がそこにある。
『変身』はこの完成された息子の役割に焦点を当てた作品なのだと考える。
「変身」を読んだ感想まとめ
本記事では、「変身」(フランツ・カフカ作)を読んだ感想をまとめました。
読むだけならサクッと終わるボリュームですが、読後にいろいろと考えさせられる良著でした。
『変身』とテーマを同じくした『火夫』と『判決』もいつか読んでみたいと思います。
それでは。